開業前に補助金が使えない理由を制度ごとに確かめました

「歯科 開業 補助金」の解説には補助金の名前が並びますが、開業の前に申請できるかどうかを原文で確かめたものは多くありません。主な制度の原文は次のとおりです。

制度開業予定の結論原文の根拠場所
持続化補助金(一般型・創業型)対象外補助対象にならない者に歯科医師。創業型は「申請時点で開業していない創業予定者」も公募要領 PDF p.5
デジタル化・AI導入補助金対象外「決算を行っておらず実績値を確認できない事業者は、交付申請の対象外」FAQ Q34
省力化投資補助金 一般型対象外「直近1期分以上の決算を迎えていない場合は申請できません」FAQ Q149
賃上げ・物価上昇の支援対象外申請時点までの診療報酬請求の実績が要る厚生労働省
新事業進出・ものづくり開業後に確認常勤従業員0名は対象外。創業後1年未満は開業届を添付(新事業進出枠は対象外)公募要領 PDF p.23・p.40
省力化 カタログ注文型開業後に確認業種表に医療業がない業種・業務領域対応表
成長加速化開業後に確認売上高10億円以上、投資額1億円以上公募要領 PDF p.7
電子処方箋の導入補助開業後に確認開業前についての記述なしガイド p.6
雇用の助成金開業後に確認雇用保険・労災保険の適用事業主などが条件各案内
在宅歯科の設備整備開業後に確認「診療所の開設者」などの条件東京都 事業概要
「申請時点で開業していない創業予定者」持続化補助金 創業型 第4回 公募要領 第9版 PDF p.5
「決算を行っておらず実績値を確認できない事業者は、交付申請の対象外となります。」デジタル化・AI導入補助金 FAQ 通常枠 Q34
「直近1期分以上の決算を迎えていない場合は申請できませんのでご注意ください。」省力化投資補助金 一般型 FAQ Q149

「開業後に確認」は、開業前について原文に直接の記述がない制度です。対象外と言い切っていませんが、対象とも読めません。創業型の要領は、開業届を先に出すだけでは足りないことも書いています。「既に税務署に開業届を提出していても、開業届上の開業日が申請日よりも後の場合は対象外」です(歯科医師はそもそも対象外です)。

開業時の買い物は補助の対象にならないと考える

補助金の多くは、交付決定の後に契約した経費だけが対象です。開業の準備で先に契約・購入した機器は、開業後に申請しても対象になりません。

制度対象の決まり開業の買い物への影響
デジタル化・AI導入交付決定前に購入したITツールは対象外開業時に入れた電子カルテやレセコンは対象外。増台や機能追加も対象外
省力化 一般型交付決定前に発生した経費は対象外。いかなる理由でも事前着手は認められない開業時の機器は対象外。見積もりの取得も事前着手に注意
「交付決定前に発生した経費 ※いかなる理由であっても事前着手は認められません。」省力化投資補助金 一般型 第9回 公募要領 PDF p.21
「すでに購入済のソフトウェアに対する増台や、追加購入分のライセンス費用又は既存ソフトウェアに対するリビジョンアップのための費用が含まれているもの。」ITツール登録要領 PDF p.14

開業の時点で全部を一度に入れるか、補助金を使える時期まで待つ設備を分けるかは、資金繰りと合わせて考えることになります。診療に欠かせない機器を補助のために遅らせるのは現実的ではありません。一方、予約や在庫のソフト、受付の省力化の設備などは、開業後の決算を待って検討する余地があります。

開業からの時期と確かめる制度

時期確かめる制度条件
開業前公庫、WAM(不足地域・在宅支援等の新設)融資の審査
開業後すぐ雇用の助成金(雇用保険の適用事業所になった後)、電子処方箋の導入補助各制度の条件を確認
最初の申告・決算の後デジタル化・AI導入補助金個人は直近分の確定申告書の控えと納税証明書、青色申告決算書か収支内訳書
最初の決算の後省力化 一般型直近1期分以上の決算。提出書類は損益計算書と貸借対照表の直近2期分が基本
令和7年4月からの請求実績がある施設賃上げ・物価上昇の支援(都道府県)県の受付期間を確認(東京は終了)
開業届と青色申告の届出から5年の後事業承継・M&A 専門家活用枠(個人事業主の条件)第三者への承継など

読み取り: 並びは原文の条件から当サイトが整理したものです。一般型は提出書類に直近2期分とある一方、FAQ Q149は直近1期分の決算を迎えていれば計画を作る方法を説明しています。開業1年目の扱いは事務局にご確認ください。

日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金

開業資金の融資で最初に確かめる制度です。公式ページの条件を表にしました。医療法人が使えるかは確かめられなかったので、ここでは個人開業の話として書きます。

項目内容
ご利用いただける方新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
資金のお使いみち新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額7,200万円
ご返済期間(設備資金)20年以内(うち据置期間5年以内)
ご返済期間(運転資金)10年以内(うち据置期間5年以内)
注記新たに営もうとする事業について適正な事業計画を策定し、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方に限る

出典: 公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(2026年11月5日確認)。利率は基準利率と特別利率があり、要件で変わります。最新の利率は公式ページをご確認ください。融資には審査があります。

「ほとんどの中小企業・小規模事業者の方がご利用いただけますが、業種や経営内容等によってはご利用いただけない場合がございます。」公庫 国民生活事業のご案内

歯科が使えると読める根拠は、公庫自身が公開している創業計画書の記入例です。歯科医院の例が載っています。除外業種の正式な一覧は確かめられませんでしたが、記入例がある以上、歯科医院が対象外という読み方はできません。

公庫の記入例を読む:歯科医院の創業計画書

記入例は相場を示す資料ではありませんが、公庫が歯科医院の計画としてどんな書き方を想定しているかが分かる一次資料です。金額を表に写します。

必要な資金金額調達の方法金額
設備資金 計1,700万円自己資金745万円
・診療所内外装工事(設備工事含む)500万円公庫 国民生活事業からの借入1,000万円
・診療設備(医療機器・歯科用ユニット等)1,000万円他の金融機関等からの借入(元金5万円×60回)300万円
・什器・備品類100万円--
・保証金100万円--
運転資金 計345万円--
・材料仕入・外注費支払150万円--
・人件費支払150万円--
・家賃等45万円--
合計2,045万円合計2,045万円
事業の見通し(月平均)創業当初1年後又は軌道に乗った後
売上高212万円276万円
売上原価(原価率20%)42万円55万円
人件費60万円80万円
家賃15万円15万円
支払利息3万円3万円
その他50万円60万円
利益42万円63万円

出典: 公庫 創業計画書【記入例】(歯科医院)。公庫の記入例の数字で、実際の開業の金額や返済の可否を示すものではありません。

「歯科医師として10年の勤務歴があり」公庫 創業計画書【記入例】

読みどころを3つ挙げます。1つ目は売上の根拠です。「保険診療平均単価6,000円×15人×23日=207万円」と自由診療 月5万円を足して、1日の患者数まで分解しています。2つ目は略歴で、勤務先、年数、副院長としてのマネジメントの経験を具体的に書いています。3つ目は競合で、駅の周辺の歯科クリニックの数と、自由診療を提供している医院の数を書いています。売上シェアは保険診療80%、自由診療20%です。

機器の金額がこの例より大きい計画もありますが、計画書の書き方の参考としては十分です。借入と自己資金の比率について、この記入例から何割が必要と読み取ることはできません。

自院で使えるかは、開設者の区分で変わります

3問で診断する

公庫の利率が変わる要件を歯科の開業に当てはめる

新規開業・スタートアップ支援資金の利率は基準利率が基本で、要件に当たると特別利率になります。歯科の開業で関係しそうなものを公式ページから抜き出しました。利率の数字そのものは公式の利率一覧でご確認ください。土地にかかる資金は原則として除かれます。

要件(公式ページの表現)利率の区分歯科の開業での見方(読み取り)
女性の方、35歳未満または55歳以上の方特別利率A年齢と性別で当たる
創業塾や創業セミナーなど(認定特定創業支援等事業)を受け、認定市区町村が発行する証明書を取得した方特別利率A開業前に市区町村の創業セミナーを受ける
上の要件に加えて女性、35歳未満、55歳以上のいずれかにも該当する方特別利率B両方に当たる場合
自ら事業計画書を策定し、認定経営革新等支援機関の指導などを受ける方(「中小企業の会計に関する基本要領」などを適用)特別利率A税理士などの関与の形を確認
Uターン等により地方で新たに事業を始める方特別利率A(過疎地域はB)東京圏から東京圏以外などへの開業

出典: 公庫 新規開業・スタートアップ支援資金。要件の細部は公式ページの注をご確認ください。担保・保証人は希望を伺いながら相談とあり、経営者保証免除特例制度なども併用できる特例として挙がっています。審査の結果、希望に沿えないことがあると明記されています。

開業地を選ぶ段階で確かめられる項目が2つあります。市区町村の創業セミナーの受講と、地方での開業です。創業セミナーの証明書は持続化補助金の創業型の要件でもありますが、歯科医師は創業型の対象者でないので、公庫の利率の話として考えます。開業の準備はセミナーの開催時期との兼ね合いがあるので、物件探しと並行して自治体の案内を見ておくと無駄がありません。

公庫の案内を、開業予定の人の目で読む

補助金の条文と逆の文が、公庫の案内にあります。補助金は決算や申告の実績を求めますが、公庫はそれがなくても申し込めると書いています。開業の前に使えるのが融資だけになる理由はここです。

「新たに事業を始める方や事業を始めたばかりで決算(個人営業の方は税務申告)を終えていない方でもご利用いただけます。」公庫 はじめての融資Q&A
開業の場面公庫の案内の答え開業予定の人の読み(読み取り)
開設の手続きがまだ許認可は原則として必要。創業前などで、今後許認可を受けることが確実な場合は利用できることがある診療所の開設の手続きと融資の順番を公庫の担当者に確かめる
自宅兼診療所を買う店舗付き住宅を購入する場合の住宅部分にかかる資金は対象にならない住宅部分と診療所部分を分けて見積もる
最初から法人で始める株式会社など法人を設立するための資本金、増資のための出資金は対象にならない医療法人の扱いは確かめられなかった
保証人個人営業の方は原則として無保証人。実質的な経営権を有する方に保証をお願いする場合がある個人開業の条件として確かめる
担保担保の有無などで異なる利率が適用される希望を伝えて相談する
金利の形契約時の利率が完済まで適用される固定金利(一部の融資制度を除く)開業時の利率で返済額を試算できる
資金が入る時期申込みから送金の完了まで1ヵ月程度(土日、祝日を含む)。日数を要する場合もある物件の契約と工事の支払いから逆算する
返済の途中で追加融資限度額の範囲内なら返済の途中でも申し込める開業後の機器の追加も同じ窓口で相談できる
開業して数年後「事業開始後おおむね7年以内」も対象開業の時だけの制度ではない

出典: 公庫 はじめての融資Q&A、公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(2026年11月5日確認)。審査の結果、希望に沿えないことがあると公庫は書いています。

「ただし、店舗付き住宅を購入される場合の住宅部分にかかる資金や、株式会社など法人を設立するための資本金、増資のための出資金などは対象になりません。」公庫 はじめての融資Q&A

補助金は返済が要らない代わりに、時期と要件の制約が大きく、開業の資金計画の柱にはなりません。開業前は融資を固め、補助金は開業後の追加の投資で考える、という順番になります。

創業計画書の欄ごとに、歯科医院で書くこと

公庫の創業計画書には9つの欄があります。記入例の書きぶりと、歯科医院の場合に自分の数字で埋める内容を整理しました。自作の計画書を出しても構わないと書類の冒頭にあります。

欄記入例の内容自院で用意する材料
1 創業の動機勤務歴と役職、独立の理由、物件が見つかった経緯開業地を選んだ理由を具体的に
2 経営者の略歴等卒業、勤務先ごとの年数、現在の月給、マネジメントの経験、歯科医師免許担当業務と身につけた技能
3 取扱商品・サービス保険診療(売上シェア80%)、自由診療(20%)。客単価6,000円、営業日数26日、セールスポイント、競合保険と自由の比率の根拠、周辺の歯科の数の調査
4 従業員従業員3人(うちパート1人)採用の予定と人件費
5 取引先・取引関係等販売先は一般個人(自己負担・自由診療)30%、一般個人(社保・国保)70%。仕入先2社材料の仕入先、社保・国保の入金の条件
6 関連企業-該当があれば
7 お借入の状況2件の借入を残高2,544万円(年間返済132万円)、76万円(同24万円)の形で記入事業・住宅・車・教育などの借入の残高と返済額
8 必要な資金と調達方法合計2,045万円(前の表)見積書を添付
9 事業の見通し創業当初と軌道に乗った後の月平均売上・原価・経費の計算の根拠

売上の根拠は、記入例の式と同じ形で自院の数字に置き換えられます。保険診療の平均単価×1日の患者数×診療日数に、自由診療の見込みを足します。単価や患者数は勤務先での経験や周辺の状況から説明します。この記事の例の数字をそのまま使うものではありません。

金融機関の審査を受ける資料と、将来に補助金を申請するときの事業計画は、同じ数字で説明できるようにしておくと後が楽です。一般型の事業計画でも付加価値額や人件費を年度ごとに書くことになります。補助金の入金を返済の原資に入れた計画は、不採択のときに崩れるので避けます。確認したどの補助金も入金は後からで、持続化の要領も「補助金は後払い」と書いています。

福祉医療機構(WAM)の医療貸付

WAMは個人も医療法人も借りられる公的な融資です。ただし歯科診療所の新設は使える場面が限られています。この条件を読まずに開業の計画に入れると当てが外れます。

「融資を受けられるかたは、個人、医療法人、一般社団法人又は一般財団法人のほか、社会福祉法人、学校法人などです。」WAM 融資制度のあらまし
「無床・歯科診療所については、診療所不足地域の場合及び在宅療養支援(歯科)診療所、かかりつけ医機能を有する診療所の新設の場合にご利用できます。」WAM ご融資の種類(診療所)
資金歯科診療所の場面上限など
建築資金(新築)診療所不足地域の新設、在宅療養支援(歯科)診療所、かかりつけ医機能を有する診療所の新設3億円以内(無床診療所・歯科診療所)
建築資金(増改築)全面建て替え、一部建て替え、改修。開設地が診療所不足地域なら甲種、充足地域なら乙種要項で確認
機械購入資金新設(新築資金)に伴い必要な場合2,500万円以内かつ購入価格の80%以内(1品10万円以上)
長期運転資金経営環境変化に伴う経営安定化、新設に伴い必要な長期運転要項で確認

出典: WAM ご融資の種類(診療所)、2026年度 融資のごあんない PDF p.14。

注意点が3つあります。1つ目は、PDFとWebで書き方が違うことです。2026年度のPDFの条件表(p.14)は、無床・歯科診療所の新築資金の欄を「診療所不足地域における新設の場合」と「地域の実情により特に必要と認められる新設の場合」の2行で書いています。Webの「在宅療養支援(歯科)診療所、かかりつけ医機能を有する診療所」が2行目に当たるのかは書かれていないので、この条件で考えている場合はWAMに確認してください。

2つ目は、WAMの「新築資金」は建物の新築だけではないことです。

「新たに病院や診療所等を開設するための建物の「購入」又は「賃借」に要する資金も「新築資金」として取扱います。」WAM 2026年度 融資のごあんない(新築資金と増改築資金の区分)

テナントでの開業でも新築資金の区分に入るということです。移転は、二次医療圏等の単位を離れる場合は新築資金、同一の単位の中なら増改築資金です。診療所の過不足はWAMのページの診療所過不足検索で確かめられます。

3つ目は、機械と運転の資金は新築資金とセットだということです。開設地の条件で新築資金が使えなければ、機械購入資金も新設の長期運転資金も使えません。

「診療所の新設に伴い新築資金を利用された場合のみご利用できます。」WAM ご融資の種類(診療所)機械購入資金

テナント開業と建物の購入で変わる返済の長さ

資金(歯科診療所の新設)償還期間(うち据置)限度
建築または購入(耐火)20年以内(2年以内)3億円、かつ所要額の70%以内
建築または購入(その他)15年以内(2年以内)同上
賃借の敷金・保証金等15年以内(1年以内)同上
賃借の権利金5年以内(6か月以内)同上
機械購入資金5年以内(6か月以内)2,500万円、かつ購入価格の80%以内(1品10万円以上)
新設の長期運転資金1年以上3年以内(6か月以内)300万円、かつ所要資金の80%以内

出典: 2026年度 融資のごあんない PDF p.14、ご融資の種類(診療所)。融資限度額には担保評価額の80%以内等の条件があり、償還財源の見込みによっては限度額まで借りられない場合があります(PDF p.7・p.14)。

公庫の記入例の金額をWAMの式に入れてみる

上で写した公庫の記入例の金額を、WAMの「次の1、2のいずれか低い額」の式に入れました。開設地の条件を満たしたとしての計算の練習で、担保評価と収支の見込みで下がります。

費目(記入例の金額)WAMの資金式計算の上限返済の長さ
診療所内外装工事 500万円新築資金所要額×70%350万円建物の種類と賃借で異なる
診療設備 1,000万円機械購入資金購入価格×80%800万円5年以内
運転資金 345万円長期運転資金所要資金×80%(上限300万円)276万円3年以内

読み取り: 合計の上限は1,426万円で、3つの費目の合計1,845万円の残りの419万円は自己資金か他の借入になります。機械の800万円を5年で返すと、据置がないとして月の元金は約13万円です。公庫の設備資金の返済期間は20年以内なので、同じ800万円を20年で返すなら月の元金は約3万円です。記入例の創業当初の利益は月42万円なので、返済の長さの差は小さくありません。金利や審査の結果は含めていません。

公庫とWAMの使い分け

項目公庫 新規開業・スタートアップ支援資金WAM 医療貸付
開業予定の個人対象(審査あり)歯科の新設は条件付き
医療法人確かめられなかった対象
限度7,200万円建築3億円以内、機械2,500万円以内かつ80%以内
返済期間設備20年以内、運転10年以内資金の種類で異なる(要項で確認)
歯科の根拠創業計画書の記入例が歯科医院「歯科診療所」の記述あり
まず確かめること事業計画と自己資金開設地が診療所不足地域か、在宅支援等の新設か

民間の銀行や信用金庫、リース会社の取り扱いは制度が多様なので、この記事では扱いません。記入例でも信用金庫からの借入が併用されています。金融機関の資金を使う場合、将来の一般型の申請で金融機関の確認書が要ることがあります。

承継で開業する場合

新しく作らず既存の医院を引き継いで開業する方法があります。公庫の事業承継マッチング支援の成約の紹介に、東京都調布市の歯科医院が載っています。譲り受けた歯科医師は当初ゼロからの創業を考えていたものの、必要な資金が高額だったことから継ぐ形を視野に入れた、と書かれています。公開されている時系列を写します。

時期譲り受ける側譲り渡す側
2022年4月事業承継マッチング支援に登録。複数の候補は立地や規模が希望と合わず-
2023年4月-事業承継マッチング支援に登録
2023年5月公庫の紹介で面談同じ
2023年9月事業譲渡契約同じ
2023年10月改装工事を開始-
2023年11月前職を退職-
2023年12月クリニックをオープン平日午前の診療を担当

出典: 公庫 事業承継マッチング支援 成約の紹介(歯科医院)。従業者数7名の医院の、この1件の時系列です。

「「ゼロからの創業」に比べて創業資金を3分の1に抑えられました。」公庫 成約の紹介 譲受側の話

読み取り: 3分の1はこの1件の話で、相場ではありません。登録から相手に会うまで1年以上かかった一方、面談から開院までは7か月です。融資の事業計画書には公庫の記入例と担当者の助言を使ったと書かれています。マッチング支援は無料のサービスと公庫の案内にあります。

事業承継・M&A補助金の専門家活用枠は、FA・仲介費用に使える可能性がある枠です。ただし個人事業主の条件に、開業届と青色申告の届出から5年が経過していることがあります。

「個人事業主は、「個人事業の開業届出書」並びに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出した日付から 5 年が経過しており」事業承継・M&A補助金 16次 専門家活用枠 公募要領 PDF p.6

勤務医のまま引き継ぐ側になる人がこの条件をどう満たすのかは、原文だけでは読み切れませんでした。開業前の方は、使える前提で資金計画を立てず事務局に確認してください。親族間の承継は原則対象外です。16次の受付は2026年11月6日17:00まで(当サイトの確認日 2026年11月5日)で、次の回は公式でご確認ください。事業承継の記事で説明します。

WAMには、承継と開業を名指しした資金もあります。「重点医師偏在対策支援区域」で新設、承継を行う診療所向けで、新築資金、増改築資金、土地取得資金、機械購入資金の融資率が90%、長期運転資金は4,000万円まで(5年以内・据置1年以内)です。いずれも国庫補助等対象事業に限るとあります。歯科診療所が当たるか、どの地域が区域かはこの記事では確かめられなかったので、WAMと都道府県にご確認ください(2026年度 融資のごあんない PDF p.19・p.21)。

開業をめぐる公的な数字

項目数字注意
歯科診療所数(2025年10月1日)65,624施設(前年より754減)個人47,539、医療法人17,395
1年間の開設(2024年10月〜2025年9月)1,282施設の移転に伴う新施設の開設を含む
1年間の廃止1,915移転に伴う旧施設の廃止を含む
届出歯科医師(2024年12月31日)103,652人2022年は105,267人
診療所の開設者又は法人の代表者54,170人2022年は56,767人

出典: 令和7(2025)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 PDF p.7〜8、令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 表9(PDF p.17)。

開設の数には移転が含まれるので、新規開業の数そのものではありません。開業資金の平均や必要額については、公的な統計を確認できませんでした。民間のアンケートや調査はありますが、この記事では扱わず、公庫の記入例の数字だけを載せています。

開業の場面ごとの当てはめ

相談の多い場面を原文に当てはめました。すべて制度の条文からの整理で、個別の可否は各窓口の判断です。

場面確かめること原文からの見立て
テナントで新規開業する公庫の設備・運転資金、WAMの新築資金(賃借を含む)の条件WAMは開設地が診療所不足地域かなどで決まる
開業時に電子カルテを入れる交付決定前に購入したITツールは対象外開業時の導入は補助を見込まない
開業半年後に予約ソフトを入れたい決算の実績(FAQ Q34)、確定申告書の控え最初の申告の後に確かめる
開業1年後に受付の設備を入れたい一般型の決算(FAQ Q149)、提出書類の直近2期分、単体の汎用品の条文決算の期数と構成を確かめる
居抜きで引き継ぐ公庫の資金の使い道、既存の設備の扱い補助金で中古品は対象外の制度がある(デジタル化・AI導入)
親から医院を継ぐ事業承継・M&A補助金は親族間は原則対象外補助以外の方法を確かめる
最初から医療法人で開設する公庫は未確認。WAMは医療法人も対象。一般型は決算の後開設者の区分で候補が変わる

開業と同時に補助金を申請できるという提案を受けたら、どの制度のどの版のどの箇所を根拠にしているかを聞いてください。開業前は決算の実績がないので、上の表のFAQに当たらない理由の説明が要るはずです。説明が要領のページで示されない提案は、契約の前に事務局へ確かめてください。

都道府県や市区町村に開業の支援の制度がある場合は別です。この記事では全国の自治体を確かめていないので、開業地の自治体の創業支援の窓口にも聞いてください。創業セミナーの開催の情報も同じ窓口で分かります。診療所向けの補助は保健医療の部局、創業の支援は産業振興の部局と、担当が分かれていることがあります。両方に聞いてください。

開業準備の順番と補助金を確かめる時期

  1. 開業地を決める前に、WAMの診療所過不足検索で開設地の区分を確かめる。
  2. 公庫の創業計画書の記入例の項目に沿って、売上の根拠と資金の表を作る。
  3. 開業時に入れる機器と、開業後に検討する設備・ソフトを分ける。補助金を見込む設備は交付決定の前に契約しない。
  4. 開業したら雇用保険・労災保険の手続きを終え、雇用の助成金の条件を確かめる。
  5. 最初の確定申告の後に、デジタル化・AI導入補助金を確かめる。
  6. 最初の決算の後に、省力化一般型の条件を確かめる。

開業の前でも、開業予定の診断で制度ごとの原文を確かめられます。開業後の区分ごとの制度は個人と医療法人の違いの記事をご覧ください。