「歯科の補助金」と検索したときに混ざる3つの話

「歯科 補助金」「歯医者 補助金」で検索すると、性質の違う情報が同じ画面に並びます。この記事が扱うのは1番目と2番目、つまり診療所を経営する側のお金の話です。

何の話か誰のためか例この記事では
診療所の設備投資・IT導入の補助金開設者(個人の歯科医師・医療法人)デジタル化・AI導入補助金、省力化投資補助金扱う
雇用の助成金と融資開設者キャリアアップ助成金、公庫、WAM(福祉医療機構)扱う
歯科健診や治療費の補助患者さん健康保険組合の歯科健診の補助など扱わない(ご加入の保険者か自治体にご確認ください)

もう1つ紛らわしいのが「歯科診療の補助」という言葉です。これは補助金ではなく、歯科衛生士などの業務の話として検索結果に出てきます。補助金を探している場合は「制度の名前+歯科」で調べ直すほうが早く目的の情報にたどり着けます。

なぜ個人か医療法人かで分かれるのか

中小企業向けの補助金の多くは、対象者を「会社又は個人」と書きます。医療法人は会社ではないので、制度ごとに「入れる」「入れない」を別の行で決めています。この別の行の書き方が制度によって違うため、同じ歯科医院でも開設者の区分で結論が変わります。

「医療法人(キで定めるものを除く。)及び法人格のない任意団体は補助対象となりません。」省力化投資補助金 一般型 第9回 公募要領 PDF p.15
「⑨医療法人、社会福祉法人 常時使用する従業員の数が300人以下の者」デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠 公募要領 PDF p.6

上の2つは同じ中小機構の補助金ですが、片方は医療法人を原則として外し、もう片方は最初から対象の行に入れています。「医療法人だから使えない」「歯科だから使える」とまとめて言えないのはこのためです。

歯科診療所の7割強は個人の開設です

厚生労働省の統計では、歯科診療所の開設者は個人が最も多く、医療法人は増えています。個人向けの制度と医療法人向けの制度の両方を確かめる必要があるのは、数の上でも両方が大きいからです。

開設者2025年2024年増減構成比(2025年)
総数65,62466,378△754100.0%
個人47,53948,667△1,12872.4%
医療法人17,39517,053+34226.5%
公的医療機関246247△10.4%
社会保険関係団体4400.0%
国4400.0%
その他436403+330.7%

出典: 令和7(2025)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 表3(PDF p.8)。各年10月1日現在の施設数です。開設者の人数ではなく、医療法人は分院があれば複数に数えられます。

2024年10月から2025年9月の動きは、開設1,282、再開72、廃止1,915、休止193で、差し引き754の減少です。同じ資料の注に「開設及び廃止には、施設の移転に伴う旧施設の廃止及び新施設の開設の件数を含む」とあるので、開設の数字をそのまま新規開業の数と読むことはできません。

15制度の早見表(個人開業・医療法人・開業予定)

eligibility(一次資料の確認)で読んだ版での結論です。制度名を押すと、原文の引用を並べた制度の早見表へ移動します。

制度個人開業医療法人開業予定
デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠 第7回〜)対象対象対象外決算の実績が要る
中小企業省力化投資補助金 一般型(第9回)対象単体の汎用品は不可、50万円以上の機械装置1つ以上対象歯科のみ・第7回〜。20人以下は 2/3対象外直近1期分の決算が要る
中小企業省力化投資補助金 カタログ注文型形式上は対象・実質使えない業種表に医療業なし対象外開業後に確認業種表に医療業なし
小規模事業者持続化補助金(一般型 第20回・創業型 第4回)対象外対象外対象外
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第2回)条件付き革新的な新製品・新サービス。既存プロセスの改善は対象外対象外開業後に確認常勤従業員0名は対象外・開業届が要る
中小企業成長加速化補助金(3次)実質該当せず売上10億円以上・投資1億円以上対象外開業後に確認売上10億円以上・投資1億円以上
事業承継・M&A補助金(16次)条件付き専門家活用枠が現実的。承継枠は保険診療と分離が要る対象外3枠とも条件付き第三者承継で引き継ぐ側
電子処方箋の導入補助(医療情報化支援基金)対象対象開業後に確認
診療所等の賃上げ支援・物価支援(都道府県)対象県による。東京は終了対象県による。東京は終了対象外申請時点までの診療報酬請求の実績が要る
在宅歯科医療の設備整備(都道府県)条件付き研修修了者の常勤など条件付き研修修了者の常勤など開業後に確認研修修了者の常勤など
キャリアアップ助成金(令和8年度)対象対象開業後に確認雇用保険適用事業所が条件
業務改善助成金(令和8年度)条件付き最賃未満の事業場条件付き最賃未満の事業場開業後に確認最賃未満の事業場が条件
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース・令和8年度)条件付き労災適用の中小企業事業主条件付き労災適用の中小企業事業主開業後に確認労災適用の事業主が条件
日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金対象審査があります未確認医療法人が使えるかは確かめられませんでした対象公庫の記入例が歯科医院です
福祉医療機構(WAM)医療貸付対象対象条件付き不足地域・在宅支援等の新設

公募要領の原文に基づく整理です。最終的な可否は各事務局の判断です。(確認日 2026-11-05)

札の読み方は次のとおりです。「対象」は原文に対象と読める記述があるもの、「条件付き」は対象になりうるが要件が付くもの、「対象外」は原文に外すと書いてあるもの、「未確認」は原文で確かめられなかったもの、「開業後に確認」は開業前について原文に直接の記述が無いものです。「対象」と書いてあっても審査や要件があり、受けられることを意味しません。

自院で使えるかは、開設者の区分で変わります

3問で診断する

個人にも医療法人にも案内できる制度

ここからは制度ごとに根拠の原文を並べます。金額は確認した版のものです。

デジタル化・AI導入補助金2026

ソフトの導入が中心の制度です。医療法人は上の⑨の行で対象に入り、個人はサービス業の個人事業主として入ります。原文に「歯科医師」の語はありませんが、除外する規定もありません。

「③サービス業…常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主」通常枠 公募要領 PDF p.6

区分で差が出るのは「小規模事業者」の扱いです。医療法人は人数が少なくても小規模事業者になりません。インボイス対応類型の 4/5 は小規模事業者の補助率なので、個人開業の5人以下には関係しますが、医療法人には関係しません。

「「中小企業等の定義」における業種分類⑨~⑮に規定する組織形態の者については、小規模事業者に該当しないものとする。」通常枠 公募要領 PDF p.7

通常枠の補助額は5万円〜150万円未満(1プロセス以上)と150万円〜450万円以下(4プロセス以上)で、補助率は1/2以内です。詳しくはデジタル化・AI導入補助金の歯科向け解説にまとめています。

省力化投資補助金 一般型

設備を中心に、業務に合わせて設計・組み合わせた機械装置やシステムを入れる制度です。医療法人は第7回(2026年6月)から「歯科医業を営む医療法人」だけが入りました。医科の医療法人は入っていません。

「キ【歯科医業を営む医療法人】以下の要件を全て満たす歯科医業を営む医療法人・医療法第44条に規定する都道府県知事の認可を受け設立されている法人であること。・従業員数が 300 人以下であること。」第9回 公募要領 PDF p.16

保険診療を行っていても申請できる点はFAQに明記があります。

「公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬につきましては、重複に該当しないため、申請いただく事は可能です。」FAQ Q65(第6〜9回)FAQ PDF p.5

読み取り: 個人の歯科医師について「対象です」と正面から答えた問いはありません。対象者の定義(会社又は個人)に除外がないこと、FAQ Q36 が「歯科医業を営む個人事業主」に触れていること、Q65 の3点を合わせた整理です。

区分の差は補助率に出ます。個人開業で常勤従業員5人以下は小規模事業者として 2/3、6人以上は原則1/2です。医療法人は小規模事業者の定義とは別に「従業員が20人以下の場合、補助率が2/3」と書かれています。一般型の歯科向け解説で、第4回から第9回までの版の違いと要件を説明しています。

電子処方箋の導入補助

施設の種類ごとに上限が書かれた補助で、開設者の区分で分ける記述は確認した資料に見当たりませんでした。院外処方と院内処方の両方の機能を入れる場合の上限が35.9万円、院外処方のみの場合は27.1万円を上限に事業額の1/2です。

「令和9年3月までに導入いただく場合(院内処方機能は令和9年1月15日)」院内処方にも対応!歯科のための電子処方箋導入ガイド 第1.1版 p.6

賃上げ・物価上昇の支援(都道府県が実施)

無床の歯科診療所は賃上げ支援150,000円/施設と物価支援170,000円/施設で、両方なら合計32万円です。賃上げ支援は令和8年3月1日時点でベースアップ評価料を届け出ている施設など、物価支援は原則全ての医療機関等が対象で、条件が別です。実施は都道府県で、東京都は2026年6月11日〜8月7日で受付を終えています。対象は保険医療機関コードがあり、診療報酬請求の実績がある施設です。他の道府県の期限はこの記事では確かめていないので、県の窓口でご確認ください。

「本事業の対象は保険医療機関コードが発行されており、令和7年4月1日から申請時点までに診療報酬請求の実績がある施設となります。」厚生労働省 賃上げ・物価上昇支援事業

在宅歯科医療の設備整備(都道府県が実施)

確認できたのは東京・千葉・栃木・広島の公式ページです。東京と千葉は研修を修了した歯科医師がいることなどが条件です。東京は基準額3,638千円/所・補助率2/3で、令和8年度分の事前調査票の期限(2026年6月30日)は過ぎています。栃木は1/2・上限50万円で令和8年度の募集が終了しています。

雇用の助成金(キャリアアップ・業務改善・働き方改革)

厚生労働省の助成金は事業主であれば開設者の区分を問わない書き方が基本です。キャリアアップ助成金は医療法人を明記しています。業務改善助成金は事業場内最低賃金が地域別最低賃金未満であること、働き方改革推進支援助成金は労災保険の適用事業主であることなどの条件があります。

「医療法上の医療法人、社会福祉法上の社会福祉法人なども含まれます。」キャリアアップ助成金のご案内(令和8年4月8日)PDF p.4

WAM(福祉医療機構)の医療貸付

補助金ではなく融資です。個人も医療法人も借りられますが、無床・歯科診療所の新設には条件があります。

「融資を受けられるかたは、個人、医療法人、一般社団法人又は一般財団法人のほか、社会福祉法人、学校法人などです。」WAM 融資制度のあらまし

医療法人が対象外の制度と、その原文

次の4制度は、医療法人を外すと原文に書いてあります。「医療法人でも相談すれば使える」という話ではないので、医療法人の歯科は最初から候補から外して構いません。

制度個人の歯科医師医療法人根拠の場所
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第2回)条件付き対象外公募要領 PDF p.18、FAQ Q14
中小企業成長加速化補助金(3次)実質該当せず対象外公募要領 PDF p.5、FAQ Q29
事業承継・M&A補助金(16次)条件付き対象外(3枠とも)承継枠 PDF p.11、専門家枠 PDF p.10
省力化投資補助金 カタログ注文型形式上は対象・実質使えない対象外公募要領 PDF p.12
「該当しない組合又は連合会や財団法人(公益・一般)、社団法人(公益・一般)、医療法人及び法人格のない任意団体は補助対象外です。」新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第2回 公募要領 PDF p.18
「医療法人、社会福祉法人、及び法人格のない任意団体は補助対象外です。」中小企業成長加速化補助金 3次 公募要領 PDF p.5
「医療法人((3)③に該当するものを除く)及び法人格の無い任意団体は補助対象とならない。」省力化投資補助金 カタログ注文型 公募要領 PDF p.12

カタログ注文型の「③」は介護保険サービスの範囲で事業を行う法人の例外で、歯科の医療法人には当てはまりません。事業承継・M&A補助金は、対象外の法人を並べた箇所に医療法人が入っています。

「社会福祉法人、医療法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、学校法人」事業承継・M&A補助金 16次 承継枠 公募要領 PDF p.11

個人も医療法人も使えない制度:持続化補助金

持続化補助金は「小規模な歯科医院に向いている」と紹介されることがありますが、原文では歯科医師が補助対象外の欄に書かれています。一般型の第20回と創業型の第4回で同じ文です。

「補助対象にならない者 ○医師、歯科医師、助産師 … ○医療法人」持続化補助金 一般型 第20回 公募要領 第9版 PDF p.5

創業型も同じページに歯科医師と医療法人が並んでいます。理由と代わりの制度は持続化補助金と歯科医院の記事で説明しています。

形式上は個人が入るのに、実際には使いにくい制度

対象者の定義に個人が入っていても、別の要件で歯科医院には届かない制度があります。ここを見落とすと「個人なら使える」と誤解します。

制度個人が入る根拠歯科で止まる理由
省力化 カタログ注文型対象者は「会社又は個人」業種・業務領域対応表に医療業の行がなく、製品の対象業種と合致させられない
成長加速化区分上は「会社又は個人」売上高10億円以上100億円未満、投資額1億円以上(税抜き)、100億宣言の公表
事業承継 承継枠・PMI投資類型医者(個人開業医)は中小企業者等に含む報酬事業と別の事業で活用すると確認できないと採択されない
新事業進出・ものづくりFAQ Q70 個人事業主は申請可革新的な新製品・新サービスなどの枠の趣旨。既存のプロセスの改善は対象外
「導入する省力化製品に紐付けられた業種のうち少なくとも1つ以上が、補助事業者の営む事業の業種と合致すること」カタログ注文型 応募・交付申請の手引き PDF p.28

読み取り: 歯科診療業として導入できるカタログの製品カテゴリは、2026年11月5日の時点で確認できませんでした。業種の定義ファイルで大分類P(医療、福祉)に入っているのは介護業の行だけです。自動精算機のような製品が載っていても、対象業種が合いません。

やりたいこと別に見た候補

区分だけでなく、何にお金を使いたいかでも候補が変わります。3問の診断はこの表を従業員数まで展開したものです。

やりたいこと個人開業の候補医療法人の候補注意
電子カルテ・レセコン・予約・在庫のソフトデジタル化・AI導入補助金同左(小規模事業者にならない)登録されたITツールだけ。買い増しや機能追加は対象外
自動精算機・滅菌器・ユニット・CAD/CAM省力化 一般型(単体の汎用品は不可)同左(第7回から)単価50万円以上の機械装置が1つ以上要る
開業・移転・増床の資金公庫・WAMWAM(公庫は未確認)補助金はほぼ候補にならない
承継(譲る・引き継ぐ)事業承継・M&A補助金の専門家活用枠対象外親族間は原則対象外
雇用・賃上げ・労働時間キャリアアップ・業務改善・働き方改革同左期限と条件を要確認
在宅歯科・電子処方箋電子処方箋の導入補助・在宅歯科の設備整備同左在宅は都道府県の事業で県により異なる

金額と期限の一覧(2026年11月5日時点)

公募は回ごとに変わります。申請の前に公式の最新の版をご確認ください。

制度補助率・上限期限・状況
デジタル化・AI導入 通常枠1/2以内(最低賃金近傍の従業員が多い場合2/3以内)。5万円〜450万円以下7次の締切 2026年12月1日17:00
デジタル化・AI導入 インボイス対応類型〜50万円部分3/4以内(小規模事業者4/5以内)、50万円超部分2/3以内。ITツール〜350万円、PC等〜10万円、レジ・券売機〜20万円公式のスケジュールを確認
省力化 一般型1/2(小規模事業者2/3、医療法人20人以下2/3)。5人以下750万円(特例1,000万円)〜101人以上8,000万円(特例1億円)第9回 2026年11月4日公募開始、申請受付12月上旬(予定)、締切12月下旬(予定)
新事業進出・ものづくり 第2回枠と人数で異なる(公募要領を確認)2026年12月25日15:00まで
成長加速化 3次1/2・上限5億円2026年11月12日15:00まで
事業承継・M&A 16次枠で異なる(公募要領を確認)2026年11月6日17:00まで
電子処方箋歯科診療所 最大35.9万円。事業額の1/2令和9年3月まで(院内処方機能は令和9年1月15日)
賃上げ・物価支援無床 賃上げ15万円(ベースアップ評価料の届出など)+物価17万円/施設都道府県による(東京は終了)
業務改善助成金公式を確認令和8年9月1日〜最低賃金の発効日の前日または11月30日のいずれか早い日
働き方改革推進支援助成金公式を確認交付申請 2026年11月30日17:00
公庫 新規開業・スタートアップ支援資金融資限度額7,200万円。設備20年以内・運転10年以内随時(審査あり)
WAM 医療貸付建築資金3億円以内、機械購入資金2,500万円以内かつ購入価格の80%以内条件あり(歯科の新設は不足地域など)

出典: デジタル化・AI導入補助金 スケジュール、省力化投資補助金 一般型 スケジュール、一般型 第9回 公募要領、成長加速化 3次 公募要領、公庫、WAM 2026年度 融資のごあんない PDF p.14。

区分と従業員数で変わる補助率と上限

同じ制度でも、区分と人数の組み合わせで補助率が変わります。公募要領は制度ごとに書かれているので、歯科医院の区分と人数で横に並べ直しました。インボイス対応類型は、ITツールの50万円以下の部分の補助率です。

区分・従業員数デジタル化・AI 通常枠インボイス対応類型省力化 一般型 補助率省力化 一般型 上限(特例)
個人 5人以下1/2以内4/5以内2/3750万円(1,000万円)
個人 6〜20人1/2以内3/4以内1/21,500万円(2,000万円)
個人 21〜50人1/2以内3/4以内1/23,000万円(4,000万円)
医療法人 5人以下1/2以内3/4以内(小規模事業者に該当しない)2/3750万円(1,000万円)
医療法人 6〜20人1/2以内3/4以内2/31,500万円(2,000万円)
医療法人 21〜50人1/2以内3/4以内1/23,000万円(4,000万円)

読み取り: 歯科診療所を「商業・サービス業」の区分で読み、小規模事業者は5人以下として並べました。医療法人の21人以上の一般型は、2/3 の記述が20人以下に限られているので中小企業の1/2と読みました。デジタル化・AI 通常枠の 2/3 と一般型の特例 2/3 は最低賃金近傍の従業員が多い場合などの条件が付くので表に入れていません。

「特定非営利活動法人、社会福祉法人及び医療法人は、従業員が20人以下の場合、補助率が2/3になります。」省力化投資補助金 一般型 第9回 公募要領 PDF p.15

表から分かるのは、6〜20人の規模では医療法人のほうが一般型の補助率が高く、5人以下のインボイス対応類型では個人のほうが高いことです。補助率だけを理由に開設者の区分を変える話ではありませんが、見積もりの前に自院の行を確かめておくと、自己負担の試算を誤りにくくなります。

個人から医療法人に変わるとき、分院があるとき

補助金の解説では見落とされがちですが、申請の後に開設者の区分が変わる場合と、施設が複数ある場合には別の決まりがあります。

応募の後に個人から医療法人になる場合(省力化 一般型)

一般型のFAQは、応募後の法人化を扱う問いの中で歯科の個人事業主に触れています。原則は認められない形の答えですが、歯科の医療法人になる場合は別の扱いです。

「歯科医業を営む個人事業主が、以下の要件を全て満たす歯科医業を営む医療法人となった場合はその限りではございません。」一般型 FAQ Q36(第7〜9回)FAQ PDF p.3
「法人化を予定している場合は、事前に独立行政法人 中小企業基盤整備機構の承認を得る必要があり、事案毎に判断させていただきます」一般型 FAQ Q36(第7〜9回)FAQ PDF p.3

同じ答えの前半は、歯科以外の個人事業主について、補助事業の終了後に医療法人になると財産処分の扱いで補助金額の一部の返還が要り、終了前になると補助金が支払われないとしています。歯科はその例外ですが、事前の承認なしに進めると返還や不交付になりうると続いているので、法人化の予定があるときは応募の前に事務局へ確認してください。

個人のときに交付決定を受けてから法人を作った場合(デジタル化・AI導入)

デジタル化・AI導入補助金には「みなし同一法人」という考え方があり、個人事業主のときに交付決定を受けた人が作った法人は同じ扱いになります。名義を変えて別の申請者として数えることはできません。

「過去に交付決定を受けた個人事業主が設立した法人についても、同様の取扱いとする。」通常枠 公募要領 PDF p.13

区分が変わると、使える制度の一覧そのものも変わります。たとえば個人のときに候補だった事業承継・M&A補助金の専門家活用枠は、医療法人になると対象外です。法人化を考えている時期は、個人開業と医療法人の一覧を両方見ておくと判断しやすくなります。

分院がある場合

申請の単位は施設ではなく開設者です。デジタル化・AI導入補助金は1法人・1個人事業主あたり1申請で、省力化一般型は公募回ごとに1申請です。施設が複数でも申請が増えるわけではありません。制度ごとの数え方は医療法人の記事に表があります。一般型で事業の実施場所が複数のときは、指定様式の事業実施場所リストを出します。一方、電子処方箋の補助は施設単位の表で書かれており、賃上げ・物価の支援も金額は施設あたりです。

「同一法人・事業者の応募は、公募回毎に 1 申請に限り、同時申請はできません。」省力化投資補助金 一般型 第9回 公募要領 PDF p.13

これから開業する場合

開業前に申請できると原文で確認できた補助金はありません。ただし「対象外」と原文に書いてある制度と、開業前について書いていないだけの制度は分けて考えます。

原文の書き方制度原文
開業前では受けられないと読める持続化補助金 創業型「申請時点で開業していない創業予定者」が補助対象にならない者の欄にある
開業前では受けられないと読める省力化 一般型FAQ Q149「直近1期分以上の決算を迎えていない場合は申請できません」
開業前では受けられないと読めるデジタル化・AI導入FAQ Q34「決算を行っておらず実績値を確認できない事業者は、交付申請の対象外」
開業前では受けられないと読める賃上げ・物価支援申請時点までの診療報酬請求の実績が要る
開業前について直接の記述なしカタログ注文型、新事業進出・ものづくり、成長加速化、電子処方箋、在宅歯科、雇用の助成金開業後に改めて確認
開業前に使える公庫 新規開業・スタートアップ支援資金「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」
「申請時点で開業していない創業予定者」持続化補助金 創業型 第4回 公募要領 第9版 PDF p.5

開業前の資金は融資が中心になります。公庫が公開している創業計画書の記入例は歯科医院の例です。詳しくは個人開業の補助金と融資の記事をご覧ください。

併用と診療報酬で気をつけること

補助金どうしの重複と、保険診療との関係は別の話です。国の補助金と補助対象経費が重なるものは多くの制度で対象外ですが、診療報酬を重複と扱うかどうかは制度ごとに違います。

制度診療報酬の扱い(原文の読み取り)
省力化 一般型(第6回〜)重複に該当しない(FAQ Q65)
新事業進出・ものづくり 第2回例外として認められている(FAQ Q70)
持続化診療報酬と同一又は類似内容の事業は対象外
省力化 カタログ注文型診療報酬と補助対象経費が重複するものは対象外
成長加速化重複を含む事業、同一又は類似した内容の事業は対象外
デジタル化・AI導入診療報酬の除外条項なし(他の国の補助金との重複は不可)
「国及び独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という。)その他の独立行政法人の他の補助金等と重複する事業については、補助事業の対象として含んでいないこと。」デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠 公募要領 PDF p.8

10制度の比較は保険診療と補助金の記事にまとめています。

古い解説を読むときの見分け方

補助金は名前と枠が毎年変わります。検索の上位にも以前の制度名で書かれた解説が残っています。次の点が今の版と合っているかを見てください。

解説に書いてあること2026年11月5日に原文で確かめた内容
IT導入補助金2026年の名前は「デジタル化・AI導入補助金」。通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠・複数者連携デジタル化・AI導入枠の4つ
ものづくり補助金第23次で公募終了。新規の受付は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金へ統合
新事業進出補助金第4回で公募終了。同じく統合
省力化一般型で保険診療は対象外第5回のFAQ Q64の内容。第6回からQ65で逆の扱い
省力化一般型で医療法人は対象外第6回までの内容。第7回から歯科の医療法人は対象
歯科診療所は約6万8千件2025年10月1日現在は65,624施設

自院で確かめる順番

  1. 開設者の区分を決める。開設許可証や開設届の開設者が個人か医療法人かで判断します。分院があっても申請者は開設者単位で考えます。
  2. 従業員数を数える。デジタル化・AI導入補助金の「常時使用する従業員」は、労働基準法第20条の解雇の予告を要する者で、会社役員と個人事業主は含みません。省力化一般型は「常勤従業員」で判定し、定義は公募要領で確認します。
  3. やりたいことを1つに絞る。制度ごとに対象の経費が違います。ソフトとハードで制度が分かれます。
  4. 原文で要件を読む。この記事の引用のページを開き、最新の版か確かめます。
  5. 窓口に聞く。デジタル化・AI導入補助金はIT導入支援事業者と共同で申請します。デジタル化・AI導入補助金に要るGビズIDプライムは、発行までおおむね2週間かかると公募要領にあるので、早めに準備します。最終的な可否は各事務局の判断です。

順番に迷う場合は無料診断で、区分・やりたいこと・従業員数から候補と原文を確かめられます。

この記事で確かめた資料の版

補助金の解説は「いつの版を読んだか」で結論が変わります。この記事の根拠にした主な資料と、版を示す情報は次のとおりです。取得日はすべて2026年11月5日です。

資料版読んだ箇所の例
デジタル化・AI導入補助金 通常枠 公募要領2026年10月9日作成(第7回〜)対象者の定義 PDF p.6〜7、賃上げ要件の適用外 p.10〜11
ITツール登録要領最終改訂 2026年10月29日登録の対象外 PDF p.13〜14
省力化 一般型 公募要領第9回(2026年11月)対象者 PDF p.14〜16、対象外の事業 p.13
省力化 一般型 FAQ第5回〜第9回(PDF 作成 2026年11月4日)Q36・Q57・Q65・Q149
省力化 カタログ注文型 公募要領令和8年10月20日改訂医療法人の扱い PDF p.12
持続化補助金 一般型・創業型第20回・第4回(各 第9版)補助対象にならない者 PDF p.5
新事業進出・ものづくり 公募要領第2回 1.0版対象外の法人 PDF p.18
成長加速化 公募要領3次 Ver1.4対象外 PDF p.5、売上高の要件 p.7
事業承継・M&A 承継枠・専門家活用枠16次対象外の法人、医者(個人開業医)の扱い
医療施設(動態)調査の概況令和7(2025)年(公表 2026年9月29日)開設者別の施設数 表3

この記事で確かめられなかったこと

原文で確かめられなかった点は、書かずに次のように分けています。

  • 個人の歯科医師の交付決定の実績:デジタル化・AI導入補助金の交付決定一覧は個人が氏名のみの掲載で、歯科医師かどうか判別できません。
  • 省力化一般型の歯科の医療法人の採択状況:第7回の発表は2026年11月中旬の予定で、この記事の時点で未公表です。
  • 公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を医療法人が使えるか:確認できませんでした。
  • 全都道府県の歯科向け補助:確認したのは東京・埼玉・千葉・栃木・広島の公式ページだけです。