3つの助成金の条件を並べる
個人開業か医療法人かで分ける制度ではありません。分かれ目は雇用の形、賃金の水準、労働時間の制度です。深い内容はキャリアアップ助成金の記事と業務改善助成金の記事に分け、ここでは入口の比較に絞ります。働き方改革推進支援助成金は単独の記事がないので、この記事の後半で詳しく書きます。
| 比べる点 | キャリアアップ | 業務改善 | 働き方改革(労働時間短縮・年休促進支援コース) |
|---|---|---|---|
| 何に対して | 有期・パート等の正社員転換と処遇改善 | 事業場内最低賃金の引上げと設備投資等 | 時間外の上限設定、年休の制度、特別休暇の導入 |
| 保険の入口 | 雇用保険適用事業所の事業主 | 労働保険に加入。引上げ対象は雇用保険被保険者 | 労災保険の適用事業主 |
| 賃金の条件 | 転換後6か月の賃金を3%以上増額など | 事業場内最低賃金が令和7年度地域別最賃以上、令和8年度未満 | 賃上げは加算の任意の目標 |
| 先に要るもの | キャリアアップ管理者、計画書、就業規則等の規定 | 賃金と設備の計画、二者以上の見積書 | 年休管理簿、計画、労使の話し合いの場と担当者 |
| 金額の幅 | 正社員化は中小企業で1人20万円〜80万円 | コースと人数で上限30万円〜600万円 | 成果目標で上限25万円〜150万円。加算あり |
| 補助の割合 | 定額 | 4/5または3/4 | 3/4。条件を満たすと4/5 |
| 医療法人の書き方 | 「医療法上の医療法人」を明記 | 資本金等がなければ労働者数で判断 | 診療所の行は労働者数300人以下のみ。資本金等のある医療法人の扱いは要綱・要領に書かれていない |
| 社会保険の条件 | あり(正社員化コース) | 適用事業所かどうかなどの条件は書かれていない | 同じ |
| 申請の窓口 | 都道府県労働局。ハローワークを通じて出せる場合あり | 労働局 雇用環境・均等部(室) | 労働局 雇用環境・均等部(室) |
出典: キャリアアップ助成金のご案内 PDF p.4・p.14・p.20、業務改善助成金 交付要綱 別表第1、業務改善助成金 Q&A PDF p.5、働き方改革 公式ページ、働き方改革 ご案内、R8 雇用関係助成金案内 簡略版 PDF p.2。「語なし」は当サイトが語を探した結果で、条件がないことを保証するものではありません。
「この助成金でいう事業主には、民間の事業者のほか、民法上の公益法人、特定非営利活動促進法上の特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)、医療法上の医療法人」キャリアアップ助成金のご案内 PDF p.4
「医療法人などで資本金・出資金を有している事業主についても、上記の表の」R8 雇用関係助成金案内 簡略版 PDF p.2
どの場面でどれを見るか
院長と事務長がよく考える場面から、見る制度を並べました。右の列を確かめないと対象になるか分かりません。
| 医院の場面 | 先に見る制度 | 最初に確かめること |
|---|---|---|
| パートの歯科衛生士を正社員にしたい | キャリアアップ 正社員化コース | 正社員と異なる規定を6か月以上適用しているか。計画は転換の前日まで |
| パート全員の時給表を上げたい | キャリアアップ 賃金規定等改定コース | 基本給の賃金規定を3%以上増額。規定の作成から |
| 最低賃金の改定に合わせて時給を上げ、機器も入れたい | 業務改善 | 一番低い時給が改定後の地域別最賃未満か。申請の末日が残っているか |
| 時給はすでに最低賃金より十分高い | キャリアアップ、働き方改革 | 業務改善は申請できない |
| 残業が多く36協定の時間を下げたい | 働き方改革 成果目標1 | 過去2年に月45時間超の実態と、月60時間超の36協定があるか |
| 年休の計画的付与を始めたい | 働き方改革 成果目標2 | すでに労使協定があると選べない |
| 時間単位の年休と特別休暇を作りたい | 働き方改革 成果目標3 | 導入しようとする特別休暇がすでにあると選べない |
| 勤怠の打刻をICカードにしたい | 働き方改革 労務管理用機器 | 労務管理が主たる機能か |
| 短時間のスタッフを社会保険に入れたい | キャリアアップ 短時間労働者労働時間延長支援コース | 週の所定労働時間の延長か基本給の増額 |
| スタッフの研修の費用を見たい | 人材開発支援助成金 | 当サイトは詳細を確かめていない |
| スタッフがいない、院長1人 | どれも対象になりにくい | 労働者や被保険者がいることが前提 |
| 機器だけ買いたい。賃金の話はない | 助成金より補助金 | ユニットの記事やデジタル化・AI導入補助金の記事 |
人材開発支援助成金は、厚生労働省の賃金引き上げの支援策のリーフレットに載っている制度です。正規雇用労働者1人に10時間の訓練を受講させて賃上げした場合に7万円という活用例があります。歯科医院での扱いは確かめていません。
雇用保険・労災・最低賃金:パートの多い医院で結果が変わる点
3つの制度は見る保険が違います。歯科医院はパートが多いので、スタッフの形によって入口の結果が分かれます。
| スタッフの形 | キャリアアップ | 業務改善 | 働き方改革 |
|---|---|---|---|
| 週20時間以上のパートがいる | 被保険者として入口に立てる | 引上げ労働者に数えられる | 労災の適用事業主なら入口に立てる |
| 週20時間未満のパートだけ | 雇用保険被保険者が0人だと受給できない | 被保険者でない人は引上げ労働者に含まれない | 保険の入口は労災なので、雇用保険の条件は書かれていない |
| 雇入れから間もない人 | 規定の適用6か月などコースの要件 | 事業場内最低賃金は6か月経過した人で見る。引上げ人数には含められる | 賃上げ加算は雇入れ日の翌日から交付申請日まで3か月を超えない人は指定できない |
| 院長の親族のスタッフ | 事業主または取締役の3親等以内は対象外 | 親族を除く文は要綱にない。見積書は親族作成だと認められない | 親族を除く文は確かめていない |
| 時給が地域の最低賃金より高い | 関係なく入口に立てる | 申請できない | 関係なく入口に立てる |
出典: キャリアアップ ご案内 PDF p.4・p.17、業務改善 Q&A PDF p.5・p.10〜11・p.18、働き方改革 交付要綱 第8条。
雇用保険の被保険者になる条件は、業務改善助成金のQ&Aに書かれています。1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある人は、原則として全て被保険者です。パートやアルバイトでも、本人や事業主の希望にかかわらず加入が要ります。
「1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること」業務改善助成金 Q&A PDF p.11 問22
最低賃金との関係も3つで違います。業務改善助成金は最低賃金が対象の範囲そのものを決めます。キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースは、最低賃金の発効日以降に上げた場合、最低賃金に達するまでの増額を3%の計算に含めません。働き方改革の賃上げ加算は、時間当たりの賃金額の3%以上、5%以上、7%以上の引上げで、加算の上限が決まります。
読み取り: つまり、毎年の最低賃金の改定に合わせて時給を上げている医院は、発効日の後に上げるとキャリアアップの賃金規定等改定の計算でも不利になり、業務改善でも発効日当日の引上げは対象外です。時給を上げる時期を決める前に、どの制度を使うかを先に決めてください。
自院で使えるかは、開設者の区分で変わります
3問で診断する個人開業の社会保険:条件があるのはキャリアアップだけです
個人事業主の社会保険の条件が書かれているのは、キャリアアップ助成金の正社員化コースです。業務改善助成金と働き方改革の要綱、要領を読みましたが、社会保険の適用事業所かどうかを条件にした文は見つかりませんでした(社会保険労務士や書類の代行の費用など、条件でない箇所に語が出るだけです)。
「正社員転換した日以降、当該労働者が社会保険の適用要件を満たす事業所の事業主に雇用されている場合、社会保険の被保険者として適用させていること。」キャリアアップ助成金のご案内 PDF p.20
| 個人開業の医院 | 正社員化コースの扱い |
|---|---|
| 常時5人以上 | 適用事業所に当たると読める(読み取りの根拠はキャリアアップの記事)。転換したスタッフを加入させる |
| 5人未満で任意適用している | 適用事業所なので加入させる |
| 5人未満で任意適用していない | 加入は要らないが、労働条件は適用要件を満たす内容にする |
5人前後の個人開業の医院は、人数の増え方で扱いが変わります。パートの人数の数え方も含めて、年金事務所で確かめてください。
人数の境目:10人、30人、100人
同じ「人数」でも、制度によって効く場面が違います。院長と事務長が人数を数える前に見ておくと、取り違えが減ります。
| 人数 | キャリアアップ | 業務改善 | 働き方改革 |
|---|---|---|---|
| 常時10人 | 10人未満も就業規則が要る。監督署への届出か申立書 | 10人未満は就業規則に準ずるものでよい | 10人以上は年休の時季指定の定めがある就業規則の届出が要る。賃上げ加算は10人未満で5%以上の上限が2.5倍 |
| 30人 | 30人を超えない事業主は短時間労働者労働時間延長支援コースの額が高い | 事業場規模30人未満は1〜3人の引上げの上限が高い | 30人以下は設備の改善事業で所要額30万円超なら補助率4/5。賃上げ加算は10人以上30人以下で2倍 |
| 100人 | サービス業の中小企業の基準 | サービス業の中小企業の基準(要領の別紙で医療、福祉はサービス業) | サービス業の基準。診療所の行は300人(下の注意) |
出典: キャリアアップ Q&A PDF p.10、キャリアアップ ご案内 PDF p.4、業務改善 交付要領 PDF p.2・p.8、業務改善 Q&A PDF p.19、働き方改革 ご案内 PDF p.2、働き方改革 公式ページ。
働き方改革の規模の表には、医療の行が別にあります。「医療、福祉のうち、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院」は常時使用する労働者の数が300人以下です。ただし注に、労働基準法第141条第1項に規定する医業に従事する医師が勤務する診療所などと書かれています。
「労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」という。)第141条第1項に規定する医業に従事する医師が勤務する病院」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.1
読み取り: 歯科医師だけの診療所がこの行に当たるかは、原文だけでは言い切れません。当たらなければサービス業の行(資本金5,000万円以下または常時使用する労働者100人以下)で見ることになります。歯科医院の多くは100人以下なので結論は同じですが、100人を超える医療法人は労働局に確かめてください。
働き方改革推進支援助成金:どの目標なら選べるか
この助成金は「残業を減らす助成金」と紹介されますが、残業の少ない医院は選べる目標が限られます。令和8年度の交付要綱の条件を、歯科医院が選ぶ前に確かめる形に並べ替えました。
| 成果目標 | 選ぶための条件 | 選べない場合 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 1 時間外・休日労働の上限設定 | 令和8年4月1日以前の2年間に少なくとも1か月、月45時間を超える時間外労働の実態。交付申請の前に月60時間(または月80時間)を超える36協定を届出 | 令和8年1月1日以後の期間のみを対象に初めて36協定を届け出る事業主 | 月80時間超→60時間以下 150万円。月60時間超80時間以下→60時間以下 100万円。月80時間超→60時間超80時間以下 50万円 |
| 2 年次有給休暇の計画的付与 | 新たに導入。労使協定を結ぶ。常時10人以上は就業規則の届出 | すでに労使協定がある。年休の付与日数が5日以下の労働者しかいない | 25万円 |
| 3 時間単位年休と特別休暇 | 時間単位年休を新たに導入し、特別休暇を1種以上新たに導入 | すでに時間単位年休の労使協定がある事業場がある(例外あり)。その特別休暇がすでにある | 25万円 |
出典: 交付要綱 第5条・第7条 PDF p.3〜5、支給要領 PDF p.12。全ての指定事業場で達成が要ります。過年度に同じ成果目標で申請していると対象になりません。
「令和8年1月1日以後の期間のみを対象期間とし、初めて 36 協定を届け出る中小企業事業主は、本成果目標を選択することはできないこととなる。」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.12
読み取り: 36協定を出していない、または月45時間を超えた月がない医院は、成果目標1ではなく2か3の25万円の枠から考えることになります。上限は改善事業の費用に補助率を掛けた額との低いほうなので、25万円を受けるには補助率3/4で約33万円以上の費用が要ります。
| 加算 | 条件 | 上限額 |
|---|---|---|
| 賃上げ(30人超の表) | 3%以上 | 1〜3人 6万円、4〜6人 12万円、7〜10人 20万円、11〜30人 1人2万円(上限60万円) |
| 賃上げ(30人超の表) | 5%以上 | 1〜3人 24万円、4〜6人 48万円、7〜10人 80万円、11〜30人 1人8万円(上限240万円) |
| 賃上げ(30人超の表) | 7%以上 | 1〜3人 36万円、4〜6人 72万円、7〜10人 120万円、11〜30人 1人12万円(上限360万円) |
| 10人以上30人以下 | 5%以上と7%以上 | 上の表の2倍 |
| 10人未満 | 5%以上と7%以上 | 上の表の2.5倍。7%以上、1〜3人なら90万円 |
| 割増賃金率 | 月60時間以内の割増率を5%以上引上げ | 25万円 |
| 割増賃金率 | 月45時間超60時間以内を5割以上にし、時間外を1人10時間以上削減 | 75万円 |
出典: ご案内 PDF p.2、交付要綱 第8条・第9条。賃上げの表は常時使用する労働者が30人を超える事業主向けの基本の額で、引き上げる労働者の数は30人までです。
対象の事業主には、成果目標の前の条件もあります。全ての指定事業場で年休管理簿を作っていること、常時10人以上の事業場は年次有給休暇の時季指定の定めがある就業規則を交付申請の前に届け出ていることです。また、労働時間等設定改善委員会などの話し合いの機会、苦情や意見に応じる担当者、事業実施計画の周知を全部行います。
何にお金を使えるか:9つの改善事業と経費の上限
成果目標は「結果」で、助成の対象になるのは目標に向けた「改善事業」の費用です。1つ以上を選びます。支給要領には区分ごとの具体例と、経費の上限があります。歯科の院長が見落としやすいのは、歯科衛生士の採用の費用に関わる区分があることです。
| 改善事業の区分 | 支給要領の例や対象外 | 経費の上限 | 歯科医院で考えること(読み取り) |
|---|---|---|---|
| 労務管理担当者への研修、労働者への研修 | 外部講師の研修。社内人材の研修は含まない。業務研修を含む | 研修を合わせて30万円 | 事務長の労務の研修。業務研修に歯科の内容が入るかは労働局に確認 |
| 周知・啓発 | ノー残業デーや年休の取得率の目標の周知など | 10万円 | 院内の周知 |
| 外部専門家のコンサルティング | 資金繰りなど単なる経営改善は不可。導入したシステムの運用の相談も不可 | 10万円 | 社会保険労務士などへの相談 |
| 就業規則・労使協定の整備 | 成果目標の達成に必要なもの。前回と全く同じ内容の36協定は不可 | 10万円(36協定は1万円) | キャリアアップの規定の整備と同じ費用を重ねない |
| 人材確保に向けた取組 | 自社サイトの採用ページの作成、求人広告の掲載、面接官の研修など。単なる企業PRや求人票の作成・提出代行は不可 | 10万円 | 歯科衛生士の求人広告や採用ページ |
| 労務管理用ソフトウェア等 | 労働時間管理の機能を含むもの。勤怠管理ソフト、給与システムとの連携など | 表3に上限なし | 勤怠の管理が手作業の医院 |
| 労務管理用機器 | タイムレコーダー、ICカードと読取装置など、労務管理が主たる機能 | 表3に上限なし | 打刻の機器 |
| デジタル式運行記録計 | 車載器や読取装置など | 表3に上限なし | 訪問車を使う医院以外は関係が薄い |
| その他の労働能率の増進に資する設備・機器等 | POS装置、自動食器洗い乾燥機などが例 | 表3に上限なし | 次の節の説明ができる機器 |
出典: 支給要領 PDF p.8〜11・p.24。経費の上限は税抜きで申請した場合は税抜きの額で判断します。契約は原則として競争に付し、交付申請に2以上の見積書を出します。
「求人情報サイトや新聞等への求人広告の掲載」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.9
補助率の4/5は、常時使用する労働者が30人以下で、機器やソフトの区分を実施し、改善事業の費用の合計が30万円を超える場合です。上限25万円の目標なら、4/5で31.25万円(25万円÷4/5)の費用で上限に届きます。それより費用が大きいと、賃上げ加算などで上限を上げない限り増えた分は自己負担です。機器の費用が大きい医院は、加算の条件まで含めて見積もりと比べてください。
申請はJグランツでもできます。分院がある医療法人は「全ての指定事業場」で成果目標を達成する必要があるので、どの事業場を指定するかが最初の判断です。未達の事業場があると、その成果目標の助成額は支給されません。
設備の見方:歯科の機器を考える前に読む文
支給要領は「労働能率の増進に資する」を、労働者の作業単位あたりの労働時間の削減と定義し、客観的かつ合理的に説明できることを求めています。例の中にCTがあり、歯科の院長には読む価値があります。
「外部に委託しているCTの撮影業務を自ら行うためにCTを導入することは、現在の外部委託に伴う調整やデータの受渡し作業等と、導入後のCTの撮影作業や機械の保守管理作業等とを比較せざるを得ないが、これらは同質の作業とはいえず」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.7
| 対象にならない例(支給要領) | 歯科医院での読み方(読み取り) |
|---|---|
| 同一機種や、能力が同等以下の機種に買い替えること | ユニットや滅菌器の同等品への更新 |
| 新設の事業場に既設事業場と同一の設備・機器等を備え付けること | 分院に本院と同じ機器を入れる |
| 事業経営に最低限必要な範囲の設備・機器等を備えること | 開業に最低限要る機器 |
| 従来行っていなかった事業を新たに展開しようとすること | 新しい診療メニューのための機器 |
| 人材の新規採用と並行し、労働能率の増進を伴わずに業務量を増やすこと | 人を増やして台数を増やすだけの計画 |
| 長期保証のオプション | 機器の保証の延長 |
| スポットクーラーやオフィスのエアコンの更新、内装工事等 | 快適化の工事 |
出典: 支給要領 PDF p.7〜8・p.11。原則として乗用自動車やパソコン、タブレット、スマートフォンの導入・更新も対象になりません(公式ページ)。
具体例として支給要領が挙げているのは、在庫管理の負担を軽減するPOS装置、自動食器洗い乾燥機などです。歯科の機器の名前はありません。要領、要綱、公式ページに「歯科」の語はありませんでした。労務管理用ソフトウェアや勤怠の機器は、労務管理が主たる機能のものが区分に入ります。
機器に使う場合の違い:業務改善と働き方改革
機器が対象になりうる2つの助成金を、同じ問いで並べます。どちらも機器の名前の一覧ではなく、説明の中身で見る制度です。
| 問い | 業務改善 | 働き方改革 |
|---|---|---|
| 同等の機種への更新 | 同等性能は認められない(問30) | 同一機種や能力が同等以下は不可 |
| 増設 | 既存では対応できない作業量があれば対象(問31) | 労働能率の増進を説明できれば可。人を増やして量を増やすだけは不可 |
| 院長が使う機器 | 労働者と同じように使用し事業場全体の生産性向上が認められれば対象(問33) | 設備の直接の利用主体は問わない |
| 評価の軸 | 生産性の向上、労働能率の増進。売上の増加や収益の改善も含まれる(問24) | 作業単位あたりの労働時間の削減 |
| 車 | 特種用途自動車以外は対象外 | 乗用自動車は原則対象外 |
| パソコン等 | 物価高騰等要件の新規購入のみ | 原則対象外 |
| 成果として問われること | 事業場内最低賃金の引上げ | 36協定や年休の制度の導入 |
| 対象経費の下限や割合 | 下限10万円(税抜)、4/5か3/4 | 3/4、条件で4/5 |
出典: 業務改善 Q&A PDF p.12〜14、働き方改革 支給要領 PDF p.7。
違いが大きいのは評価の軸です。業務改善は売上の増加や収益の改善も生産性の向上に含めるとQ&Aが書いていますが、働き方改革は労働時間の削減で見ます。対応できる件数が増えるだけの増設を働き方改革の要領は認めていません。同じ機器の計画でも、どちらの制度に出すかで説明の書き方が変わります。
賃金を上げる3つの方法の違い
「スタッフの給料を上げる医院に助成金が出る」という説明は、3つの違う仕組みをまとめて言っています。上げ方と対象の人を並べると別物です。
| 比べる点 | キャリアアップ 賃金規定等改定 | 業務改善 | 働き方改革 賃上げ加算 |
|---|---|---|---|
| 誰の賃金か | 有期雇用労働者等 | 事業場で一番低い人と、追い抜かれる人 | 指定した労働者(30人以下)。正社員でもよいと読める |
| 上げ幅 | 基本給の賃金規定を3%以上 | コースの額(50円、70円、90円)以上 | 時間当たり賃金額を3%、5%、7%以上 |
| 助成の出方 | 1人あたりの定額 | 設備投資等の費用に助成率 | 成果目標の上限への上乗せで、費用に補助率 |
| 設備投資 | 要らない | 要る | 改善事業の費用が要る |
| 規定 | 賃金規定等を改定して適用 | 就業規則等に引上げ後の額を定める | 就業規則等の作成・変更と施行 |
| 賃金を払う期間 | 増額改定後6か月分 | 原則として事業実績報告書の提出日まで | 引上げ後の賃金を1か月分以上 |
| 後の確認 | 減額していないか | 状況報告で賃金の引下げを確認 | 賃金の支払状況の報告 |
出典: キャリアアップ ご案内 PDF p.36〜37、業務改善 交付要領 PDF p.2、業務改善 Q&A PDF p.20、働き方改革 交付要綱 第8条。
金額の感覚は、厚生労働省の賃金引き上げの支援策のリーフレットの活用例がつかみやすいです。業務改善は事業場内最低賃金の労働者3人の時給を70円上げた場合に、設備投資の費用に対して最大100万円です。キャリアアップの賃金規定等改定は、中小企業が5%増額改定して10人の有期雇用労働者の賃金を上げた場合に65万円です。働き方改革の労働時間短縮・年休促進支援コースは、このリーフレットでは基本の上限が25〜200万円、賃上げの加算が6〜360万円、割増賃金率の加算が25〜100万円と書かれています(ご案内の成果目標ごとの上限は25万円〜150万円で、この記事の表はご案内の額です)。設備投資の要るものと要らないものがあるので、上限額だけで比べないでください。
事業の単位も違います。キャリアアップは雇用保険適用事業所ごとに計画と管理者が要り、業務改善は事業場ごとに申請して事業主単位の年間上限が600万円です。働き方改革は事業主を対象とする助成金で、原則として本店の所在地を管轄する労働局に申請し、同一年度に2回以上の交付決定を行わないと要綱にあります。分院のある医療法人は、制度ごとに数え方を切り替えて考えてください。
「本助成金は中小企業事業主(交付要綱第3条第1項)を対象とするものであり、各事業場・事業所を対象とするものではない」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.26
動いてよい順番が3つとも違います
| 順番 | キャリアアップ 正社員化 | 業務改善 | 働き方改革 |
|---|---|---|---|
| 1 | 管理者を決め、計画書を転換の前日までに提出 | 見積もりを取り、交付申請 | 見積もりを取り、交付申請(見積りの取得は申請前でよい) |
| 2 | 就業規則に規定。異なる雇用区分の適用6か月 | 賃金を引上げ(交付申請の後、発効日の前日まで) | 交付決定 |
| 3 | 規定どおりに転換 | 交付決定(到達から原則3か月以内) | 契約と改善事業の実施 |
| 4 | 転換後6か月分の賃金を支払う | 機器の契約、納品、支払い | 36協定や就業規則の届出、賃上げの実施 |
| 5 | 翌日から2か月以内に支給申請 | 実績報告と支給申請 | 支給申請 |
| お金の入り方 | 取り組みの後 | 事業の実績の後 | 事業の実績の後 |
出典: キャリアアップ ご案内 PDF p.2、業務改善 交付要綱 第4条・第6条、働き方改革 支給要領 PDF p.11。
「交付決定の前に改善事業に係る契約行為等を行った場合、当該契約行為等に係る内容を改善事業に含めることはできない。」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.11
業務改善は賃金を上げてよい時期のほうが、機器を買ってよい時期より早く来ます。働き方改革で賃上げ加算を使う場合は、賃金の引上げは交付申請日から事業実施予定期間の終期までの間に、就業規則等の作成や変更を行って施行し、引上げ後の賃金を1か月分以上支払います。キャリアアップは計画の提出が先で、規定の適用6か月が要るので、3つの中で準備の期間がいちばん長くなりやすい制度です。
期限(当サイトの確認日 2026年11月5日)
| 制度 | 申請の期限 | 事業の期限 | 公式の注意 |
|---|---|---|---|
| 働き方改革 | 交付申請 2026年11月30日17:00 | 事業実施 2027年1月31日まで。支給申請は終了日から30日後か2027年2月5日の早い日 | 予算の制約で期限前に受付を締め切る場合あり |
| 業務改善 | 2026年9月1日から、県の地域別最賃の発効日の前日か11月30日の早い日 | 交付決定の年度の1月31日。やむを得ない場合は3月31日 | 申請期間内に募集を終了する場合あり |
| キャリアアップ | 計画はコース実施日の前日まで。支給申請は賃金支給の翌日から2か月以内 | 計画期間3〜5年の中で | 年度の途中で要件が変わる場合あり |
出典: 働き方改革 公式ページ、働き方改革 ご案内、業務改善 公式ページ、キャリアアップ ご案内 PDF p.5・p.10。
「交付申請期限は 令和8年11月30日(月)午後5時 です。」働き方改革推進支援助成金 公式ページ
業務改善の末日は県で大きく違います。確認日の時点で残っていたのは5府県だけで、県ごとの末日は業務改善助成金の記事の表をご覧ください。働き方改革も業務改善も、次の年度の公募があるかは公式の資料で確かめられていません。今年度の期限が過ぎた後に読む方は、公式ページで新しい年度の案内を確かめてください。キャリアアップは締切の回がある形ではなく、取り組みごとの期限です。
併用:同じ人と同じ機器で答えが違います
「助成金は併用できますか」という問いには、人と機器で分けて答える必要があります。原文の文言は次のとおりです。
| 組み合わせ | 原文の答え | 場所 |
|---|---|---|
| 業務改善で上げた人を、キャリアアップ 賃金規定等改定の対象に数える | できない | 業務改善 Q&A 問47 |
| 働き方改革の賃上げの対象者が、業務改善や雇用関係助成金の賃金引上げの対象者と重なる | 差し支えない | 働き方改革 支給要領 PDF p.15 |
| 同じ機器を業務改善と働き方改革の両方に出す | いずれか1つだけ交付決定 | 働き方改革 支給要領 PDF p.15 |
| 業務改善の対象経費に国や地方公共団体の補助金を受ける | 交付の対象としない。公益財団法人等の助成も同じ | 業務改善 交付要綱 第4条、Q&A 問48 |
| 働き方改革で同じ改善事業や成果目標に他の補助金を受ける | 交付決定を行わない。税制上の措置はこの「他の補助金」に含まれない | 働き方改革 交付要綱 第11条、支給要領 PDF p.29 |
| キャリアアップで同じ行為を対象に複数の助成金等を申請 | 一方しか支給されないことがある | キャリアアップ ご案内 PDF p.5 |
| キャリアアップと人材開発支援助成金 | 特定の訓練の修了者を転換する場合に計画届を1本化できる(紙の届に限る) | キャリアアップ ご案内 PDF p.23 |
| デジタル化・AI導入補助金と国の他の助成金 | 併用はできないが、事業内容が重複しなければ申請は可能 | FAQ 通常枠 Q19 |
「本助成金の賃上げ対象労働者と、業務改善助成金の事業場内最低賃金引上げの対象者及び雇用関係助成金における賃金引上げの対象者が重複することは差し支えない。」働き方改革推進支援助成金 支給要領 PDF p.15
「国及び中小機構の他の助成金・補助金との併用はできません。」デジタル化・AI導入補助金 FAQ 通常枠 Q19
読み取り: 人の重なりは制度の組み合わせで答えが逆です。機器は重ねない、が共通です。都道府県の賃上げ・物価支援事業を受けた医院は、その実施要綱が「他の補助金等を財源として行っている部分に充てることはできない」と書いているので、賃金改善の財源が重ならないよう確かめてください。
補助金との違い:歯科の院長が取り違えやすい点
| 点 | 補助金(デジタル化・AI導入、省力化など) | この記事の3つの助成金 |
|---|---|---|
| 決まり方 | 審査で採否が決まる | キャリアアップは要件の確認。業務改善と働き方改革は交付決定があり、予算の範囲内 |
| 賃金 | 制度によって賃上げが要件や審査で見られる項目 | 賃金や労働時間の改善そのものが条件や成果目標 |
| 機器の買い方 | 交付決定の前は対象外が基本 | 業務改善と働き方改革も同じ。キャリアアップは機器の制度ではない |
| 開設者の区分 | 制度により医療法人が対象外 | 書き分けない |
| 開業前 | 制度の要件次第 | 雇用と保険の実績が前提で、開業前に申請できると確認できたものはない |
助成金だからといって、自動的にもらえるわけではありません。キャリアアップは書類の要件で不支給になり、業務改善は申請の末日と賃金の水準で対象が絞られ、働き方改革は全ての指定事業場で成果目標が未達だと、その目標の分は支給されません。予算の制約で期限前に締め切る場合があることも公式に書かれています。
勧誘への注意:3制度とも公式に注意書きがあります
キャリアアップのご案内は、受給額の無料査定をうたう書面の送付や「100%助成金が受けられます」といった勧誘について注意しています。業務改善の公式ページも、厚生労働省から委託を受けたと装って勧誘する事業者の情報があるとしています。代理人に任せても、不正受給の責任は事業主に及びます。
「厚生労働省や労働局が、特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはありません。」業務改善助成金 公式ページ(注意喚起)
就業規則や賃金台帳の整備は社会保険労務士の領域です。業務改善の代理人になれるのは社会保険労務士または弁護士で、見積書を出した者や契約の相手方は代理人になれません。キャリアアップのご案内と働き方改革のご案内には、無料で相談できる働き方改革推進支援センターの案内があります。
確かめられなかったこと(確認日 2026年11月5日)
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 3制度の令和9年度の内容 | 公式の資料で確かめられていない |
| 歯科の機器を名指しした判断 | 業務改善と働き方改革の要綱、要領、Q&Aに「歯科」の語なし |
| 歯科だけの診療所が働き方改革の表の診療所の行に入るか | 原文だけでは言い切れない |
| 人材開発支援助成金の歯科医院での扱い | リーフレットの活用例だけを確認した |
| 都道府県や市区町村の独自の助成金 | 確かめていない。県や市区町村の窓口に聞いてください |
金額の早見はキャリアアップ、業務改善、働き方改革の早見表にあります。計画や交付申請の前に実施してしまうと対象にならない点が3つに共通します。取り組む前に労働局か専門家に確認してください。当サイトは制度の整理までを扱います。